すみっこ(ウクライナ)で見た、聞いた、考えた

カテゴリ:読書( 10 )

ミラン・クンデラ「生は彼方に」読了

多分に作家本人と重ね合わせている部分が指摘される本作である。再度になるが、この描写、まるで死体の皮を剥いでいく検死官のような淡々とした表現である。であるがゆえに最後の二章であっけなく死が明らかになる主人公の皮相さ空虚さ、そして間抜けぶりが際立つ。このような皮肉のために延々とこの大部の作品を書いてゆくこの作家をどう捉えればよいのだろう?

クンデラの描写自体にそれほど共通点があるとも思えないセリーヌの「夜の果てへの旅」読後に味わった感覚と同質の嫌悪感を覚えてしまうのだ。

そう、ぼくの嫌悪感の源は、この作家がかくも透徹した分析眼と全体へのパースペクティヴを持ちながら、主要な題材、テーマがあまりに貧弱であることなのだ。一人の偏向した少年の自我に、チェコの共産主義を支えた感傷的倒錯者たちに、皮肉を投げかけることがこの小説の価値なのだろうか(再三言うように、ほとんど全編を貫いて発揮される語り手の慧眼にもかかわらず、である)?


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by exist2ok | 2006-08-13 01:36 | 読書

ミラン・クンデラ

「生は彼方に」をもう少々で読了予定。

クンデラの名は以前から気になってはいたが、読む機会がなかった。

この小説はクンデラの実際の人生とも重なる部分を多分に含んでいる。そして、著者の視点はある意味冷めていて批判的ですらある。まるで検死官が遺体の皮を一枚一枚丁寧に点検しながら剥いで行くような、そんな描写である。

章が変わるたびに、クンデラは文体に変化を持たせている点も興味深い。まるでそこでは、時間が伸び縮みするかのような錯覚にとらわれる。


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by exist2ok | 2006-08-10 04:06 | 読書

竹内理三『日本の歴史6 武士の登場』

「平家物語」の読解補助のために持ってきたが、歴史的な全体の見通し、各論ともに明快かつ詳細で面白かったため、足掛け三日で読破してしまった。
解説の入間田氏によると竹内の論旨は古典学説であり、現在では異とされる部分も多いとのこと。とくに武士の起源に関してはいまだ議論の余地ありで、一概に私営田領主が配下農民に対抗する強制力としてさむらい化したものがはじまりとは言い切れないらしい。まあ、そこら辺の起源説は研究者ではない自分にとってはどうでもいいことである。

どんな時代でも転換に際してのキーパーソンはいるのだが、そういう人が有能だったり無能だったりするわけで、権力者がいかなる人物かで全体に与える影響が変化するのが興味深いところ。藤原清衡、後三条天皇、藤原頼長、藤原信西入道、後白河法皇が。清衡は奥州藤原氏の祖で、『炎立つ』はNHK大河ドラマで見た向きも多かろうと思うが、生い立ちの複雑さから身につけた政治感覚が奥州をまとめるまでになる。後三条天皇は摂関政治に一瞬開いた空白にあらわれた名君で公正な人柄に好感が持てる。在位が五年足らずというのがもったいない。荘園整理の他に、宣旨枡も定めていたとは知らなかった。以下の三人は奇人と思わせる類のエピソードが可笑しい。すさまじい読書家でもある杓子定規な頼長は政治でもぜんぜん妥協しないで周りから恨みをかってしまう。この人は政治なんかやらない方が幸せに生きられただろう。
信西入道は博覧強記の才人で出世後にわがまましずぎたため平治の乱で殺されてしまうが、宋の商人が来たときに中国語で世間話をはじめて人を驚かせる話がある。きかれて「もしかしたら遣唐使になることがあるかもしれないからこっそり勉強してたんだ」なんてさらりと答えるあたりが振るっている。
後白河法皇は今様好きが高じて「梁塵秘抄」まで作るほどだが、その打ち込み方が只者ではない。鳥羽上皇はじめ貴族から白い目で見られているのに、貴賎上下を問わず今様の名人だと聞くや召し連れたり出向いたりして、のどがかれてもう歌えなくなってもまだ打ち込んだというのだからすごい。今様ははやりの歌謡曲のことで、たしかにいま天皇陛下がモー娘とかにこりだしたら、、、と考えると後白河のハチャメチャぶりが想像つくというもの。


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by exist2ok | 2005-08-12 21:12 | 読書

一時的に自宅で休養中

英語でエドマンド・バークの「フランス革命の省察」がよみたくなり、キエフの本屋をいくつか回ったが見つからなかった。かわりにクラウゼヴィッツの「戦争論」を購入。内容の難解さに比べて、英訳は意味を尊重した意訳に近いものとのことで、言葉として理解不能な部分はあまりない。まあ、たいしたことのない自分の英語力で読むんだから誤読ばかりかもしれないが、あくまでも楽しみのために読むんだからこれでいいと思ってる。
こうして外国語書籍に毎日触れていると、読解ではなんだかんだ言って英語が一番わかるのである。スペイン語は話せるが語彙力はそれほどないし、自分のメインになるはずのロシヤ語はすべての面においてまだまだ未熟(村上春樹「ノルウェーの森」の訳を読んでいる最中だが)。ということで、継続的には一度もまじめに勉強したことのない英語が、意味だけはすらすら入ってくるんだから、中学からはじめて(させられて)から早や20年近くの蓄積というのは大きい、と改めて思った次第(20年でそれだけかよ、という話はとりあえず横に置いといて)。

「戦争論」は全訳ではないがおよそ400頁。いつ終わるのだか見当もつかない。確かに内容の軽い短編物を選べば楽しみながら訓練にもなると思う。その点では、ドイルやクリスティーなどの推理モノは最適だろうが、いかんせん肌に合わない。京極夏彦の京極堂シリーズで勉強になる探偵モノもあるということを知ったが、基本的に推理小説はテレビゲームとおなじ次元の暇(時間)つぶしの娯楽だと思う。テレビゲームというのは、もちろん子供の時にはずいぶんお世話になったしいまでもバイオハザードやホラー推理ゲーム、コーエーの歴史シュミレーションは好きだけど、やり終えたあとの無意味感がなんともやりきれないので今では一年に数日間くらいしかしない。それに従事した時間丸ごとただのウンコ製造機になるわけなので、、、。何一つ得るところがない。いやー、日本にはこういうことだけで人生を浪費している人間が何万もいると思うと怖いですね。マトリックスの保育器を思い出す。
でも、翻って言えば純粋の娯楽だけを求めるためには自分は欲が深すぎるのかもしれない。推理小説読者やテレビゲーマーのように与えられる快楽を次々消費することだけで満足できる無害で優しい人間になりたいと願う今日この頃。


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by exist2ok | 2005-08-07 21:02 | 読書

ショスタコーヴィチの回想本


日本では翻訳が出版されてまだ一年ほどである「思い出の中のショスタコーヴィチ:我が父ショスタコーヴィチ」(邦題は忘れました)という本を先日発見。翻訳は本屋で一度眺めた程度で内容にはまったく目を通さなかった。日本は本が高いから買えません。原本は12グリブニャで日本円で250円くらい(これなら買える)。
まったく専門的な内容ではなく、マクシム、ガリーナと編集者アルドフの実見したショスタコーヴィチの思い出とそれに関する関係者の著作や言葉が抜粋された形。最後あたりには、我らがキリール・ペトローヴィチの言葉も引用されている。
戦争中の疎開の話から始まるが、今読んでいる子供時代はマクシムのいたずらの話ばかり。でも、この身近さが新鮮。これからどんなショスタコーヴィチが見えるのかが楽しみ。

ベッドに寝そべって辞書を片手に音楽をかけながら読む時間は心地よい。四重奏曲をかけることが多い。ボロディン・カルテットの弦楽四重奏曲全集(新盤)でとくにきくのは3番の入った一枚。リヒテルとのピアノ五重奏曲も大好き。逆に手が伸びないのは初期と後期の一枚づつ。後期の十四、十五番はまだ自分には敷居が高い気がする。

ぼくはいわゆる通俗名曲というのは嫌いで交響曲も第五番(これを「革命」と呼んでいる日本人にはもうショスタコーヴィチを聞かないで欲しい。八番をスターリングラードと呼ぶくらいおかしい)や十番、四重奏曲の八番(室内交響曲も)はあまり好きではない。なのに、交響曲の七番が大好きだったりと我ながら天邪鬼なのか単純なのかわからない。因みに、交響曲では七、八、九、十一、十三は最高位に属する曲。芸術的完成度と僕に与える感動が高度な地点で平衡しているので。

いま思い出したが、ヴラジーミル・マシュコーフの「パパ」という映画にはショスタコーヴィチの曲が使われている。ヴァイオリンの才能を持った主人公と守銭奴の父(言葉が聞き取れず何をやってるのか不明)との物語。なぜか交響曲第五番第四楽章をヴァイオリン・コンチェルトでというぶっ飛びモノの演奏(しかも途中でおしまい)が聞ける。室内交響曲のスケルツォも出てくる。
ちなみに、主人公の名前がダヴィットというのはわかる人にはわかるというか、ニヤリとさせますね。

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by exist2ok | 2005-07-20 22:17 | 読書

遅まきながら、明けまして御目出たう候

独り言のようになっているのでいつまで続けるかわかりませんが、、、
能の感想も書かずに年末から今に至るまで京極夏彦の京極堂シリーズに没頭しており他の事が手付かずです。

現在シリーズ五作目の絡新婦の理(じょろうぐものことわり)
昨年30日に一巻を読みはじめて今まで約一週間。
速読していないのであまり早く読んでいるわけでもないのだが、ねてもさめても文庫本片手なのだから進むわけだ。

第一巻姑獲鳥の夏(うぶめのなつ)は今夏映画化されるというので評判になることまちがいなし。公式サイトもあるようだ。

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by exist2ok | 2005-01-06 23:29 | 読書

サルトル 「汚れた手」

ジャン=ポール・サルトル
「汚れた手」「墓場なき死者」
サルトル全集 第七巻 人文書院
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知識人と労働者との懸隔、教条主義、暗殺、目的と手段の倒錯、、、
暗い時代の共産主義運動のエッセンスを抽出した傑作戯曲。
手段が目的を食いつぶしてゆく革命思想の矛盾。実存主義は不条理の前に立ち尽くす”我”の思想なのだと改めて確認した次第。
物語に主体的に関わっていないかに見えるユゴーの妻ジェシカの存在が、終盤にわかに重要になる点まで含めて象徴的な作りになっている。作中にも名指しされるように、ユゴーにとって彼女は「贅沢品」だ。それは彼の出自に等しく対応した存在である。だから、エドレル射殺のきっかけが彼女であることは、物語の根幹に関わるほど重要だ。
「政治は科学であり、自分の正しさを証明できる」とする理論の皮が剥がれたとき、そこにユゴーの生身の判断基準があらわれるからである。


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by exist2ok | 2004-12-22 22:04 | 読書

三島由紀夫 近代能楽集

能の舞台を現代に置き換えて大胆に作り変えた戯曲集。

邯鄲
綾の鼓
卒塔婆小町
葵上
班女
道成寺
熊野
弱法師

三島由紀夫は好きではないのでずいぶん読んでいなかったが、今月末の国立能楽堂の特別公演で岸田今日子と茂山逸平の出演で”卒塔婆小町”の朗読があるため手にとった次第。

彼独特の憂鬱な色気に満ちた文体が好きになれないのだが、しかし、この作家がここで見せた才能には瞠目せざるをえない。能の題材を換骨奪胎し、時には結末を変更することも辞さない。
能の自在な時空表現そのままに、言葉のみで人物が時・所を瞬時に転移する。

三島が翻案可能としたのは現行曲約250曲のうちからわずかに8曲のみであるが、現代に舞台を移すことによって、能がそもそも扱う人間の情念・苦悩がそのまま僕らに当てはまってしまうことが明瞭になる。
能には己を凝視して求心的に潜行してゆく視点がある。だから題材を超越してダイレクトに僕らの”現在”にまで到達してしまうのだろう。

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by exist2ok | 2004-11-14 11:15 | 読書

白洲正子

能を見るようになって白洲正子を知ったのはいつだったか、何がきっかけだったか、すっかり失念してしまったが、現在彼女の他にこれほどぼくの関心を引く著述家はいない。

前回読んだ能の物語は謡曲を再構成して小説風に仕上げたものだが、今回の謡曲 平家物語は、平家物語を検討しつつ謡曲の筋を解釈しなおすというもの。この人の慧眼にはほとほと頭が下がる。能が言葉を如何に大切にしているか、またそれがわからなければ魅力も半減してしまうことを痛感させられる。そして彼女に導かれて”お能”の扱う人間描写の深淵へと徐々に誘われてくる、という仕組みである。
書いていることがいちいち観念的でないので(自身で能を習い、身体として身についているからだろうが)とても容易に胸に落ちてくる文章なのだ。この本の助けがなければ、先日の銕仙会の兼平も理解できなかっただろう。

なんでも意味のあることは難しいものなのだと思う。表面上わかりやすい・楽しいことが意義あるものではないことの方が多い。だから、果実の甘みを味わう為には外皮の苦みを味わなければならない。それが芸の厳しさでもある。
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by exist2ok | 2004-10-27 03:00 | 読書

岩波セミナーブックス59 能・狂言

能・狂言 : 日本古典芸能と現代
横道万里雄, 小林責 著

能・狂言のこれまでの歴史的概略を経、戦後50年間の各流派の動向を解説したもの。
こういう本を待っていた。伝統芸能といっても、時代の流れを受けその摩擦の中で変遷していくものだということが良く分かる。しかも能においては良い意味でその新陳代謝が行われていると好意的に書いてある。狂言の部分もまた面白い。能よりはるかに大衆化が進み成功している。現在活躍する能楽師たちの活動指針や位置の概略を把握できる。
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by exist2ok | 2004-09-30 05:27 | 読書



メキシコ、N.Y. L.A.そして現在はウクライナのハリコフ市に住むおがわがお伝えします。コメント・TB大歓迎です。どんどん絡んでくださいね。
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