花よりも花の如く
お能を扱ったマンガ。
いわゆる「内部事情」をとても良く描けている。しきたりの正確な描写は並大抵の努力でできるものではない。実際銕仙会の協力を得て、細かなしぐさの差違にまで銕之丞師から逐一指摘を受けて修正しながら作っていったとのこと。作者の観察と努力の結果でそれはとても頭が下がる。 しかし、これは能の面白さを全く描けてない作品でもある。能楽界という人材的に非常に狭い世界の「内輪話」は、あくまで副次的な興味の対象にはなるだろう。だが、すでに興味を持った人、または習い事としている人が自己同一性を発見して喜ぶ対象にはなり得ても、能を楽しむことは裏方を覗きこむ好奇心とは本質的に関係がない。 少女フェミニズムの習い事的オナニズム(少女マンガの存在そのものがその牙城なのだが)は、全ての芸事(バレエ、クラシックなども)を汚染している。 わずかに物語のアウトラインに能の主題が関連付けられるのみである。能のなにが人を惹きつけるのかが無視され、ひたすら上滑りに関係者の内部事情が正確に淡々と描かれる。主人公にとってそれはただの規則であり生活である。己の位置に安心立命した終わりなき日常。それこそ少女フェミニズムだ。 能の物語にも、世阿弥の著作を読んでもそこには溢れるばかりの想像力とドラマトゥルギーが満ちているのに、その万分の一の共感もない。世阿弥があることを言っているとき、何故そうなのかを問う姿勢がなければ規則は頚木以上の価値を持たないだろう。 すみっこ(ウクライナ)で見た、聞いた、考えた
by exist2ok
| 2004-12-04 21:34
| お能
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